歯のトラブル:痛みはないが、頬が腫れている?

■慢性骨炎/歯槽骨炎

わんちゃん、ネコちゃんでは、顔が腫れるのは歯の根っこの周囲に膿がたまることでおきること(根尖周囲膿瘍)が多いのですが、そうでない場合も見受けられます。

先日、歯石とりと歯科検診をしたKちゃん(ネコちゃん、9歳)。

健康診断の時に、歯茎に腫れが見られましたが、痛みもなく、水(膿)が溜まったような柔らかい感触もありませんでした。

歯石の付着もみられていたため、この腫れている所のレントゲンでの確認と歯石とりの処置を実施しました。Kちゃんの顎のレントゲンを撮影すると、この場所は、骨が盛り上がっていることがわかりました。

これは、ここにある歯に炎症・感染が起こり、それに反応して骨が増殖(骨増生)したことにより、歯茎が腫れたと考えられます。

また、右のレントゲン写真から(緑色の矢印)、少しですが反対側の頬も同じような骨増生が見られています。そのため、原因と考えられる歯を抜歯して治療しました。

一般的には、『目の下など、顔が腫れる』や、『頬の皮膚が破れて膿が出てくる』などの症状の原因は、歯の根っこに感染が起こる根尖周囲病巣が多いです。しかし、その他にも、腫瘍や根尖周囲病巣がひどい場合は、顎が骨折してしまっている場合もあります。

腫れや痛みなどがある時は、動物病院への相談が大切です。

一般的な動物病院にあるレントゲンの機械は、胸やお腹などを大きく見る時は、とても有用です。しかし、歯のような厚い頭の骨に囲まれた所を見る時には、歯医者さんで撮るようなレントゲンでないとはっきり見えないことが多いです。
当院では、歯石とりの際には、必ず、歯科レントゲンを用いたレントゲン検査を実施しています。お気軽にご相談ください。

 


犬や猫の歯石の放置は危険です。下顎なら骨折の恐れもあります。

■犬の下顎犬歯の粘膜フラップ形成と組織再生誘導(GTR)

今回は、歯石が重度についているワンちゃんの治療です。
歯石とりの相談にこられた子ですが、前歯にかなり歯石と歯垢が付着しています。
あまり状態も良くなさそうなのですぐに歯石とりと歯科検査・治療を実施しました。

左右の下顎犬歯に歯石がとてもついています。(写真左)
歯石を除去してみると、えぐれたように歯周ポケットが形成されています。(写真中)

レントゲンでも、深い歯周ポケットが確認されました。(レントゲン写真左中)
犬歯にはぐらつきがないため、犬歯の歯石をきれいに除去した後に、歯周ポケットに骨補填剤を埋め、抜歯した切歯の歯肉を利用して粘膜フラップを製作しました。(肉眼写真右、レントゲン写真右)

 

処置後1週間目の写真です。縫合糸はまだ残っていますが、歯肉粘膜がうまく定着してくれたようです。
今後は、がんばって歯磨きをしてもらいながら、うまくポケットが改善されているか定期的に観察することになります。

歯周病が進行すると、深い歯周ポケットを形成してる場合も多く、下顎の場合ひどいときは骨折を引き起こすこともあります。
特に歯の内側は全身麻酔をかけないと詳しく解ることができない場合も多く、麻酔をかけてびっくり!ということも多いです。

当院では、歯石取りや歯の治療以外にも定期的な歯周病のチェックと歯磨きのアドバイス、歯石取りのタイミングなどを詳しくアドバイスしております。おきがるにご相談ください。


犬や猫の口臭や歯石は、思ったよりも早めに検査や治療が必要です。

「犬や猫の歯石、だいぶついてきたからそろそろ歯石とりをしようかな?」
「口臭が気になるから、そろそろ歯石とりをしようかな?」

みなさんは、どのようなタイミングで歯石とりの相談を考えていますか?

上の写真は、歯石とりを希望され来院されたわんちゃんの口の中の写真です。
犬歯には半分ほど、奥歯にはほぼ全面に歯石が付着しています。
このくらいの状態で歯石とりや歯の相談をいただくことが多いです。

口の中の状態は、見た目よりも酷い症状の場合が多いため、このくらい歯石がついている状態だと残念ながら、抜歯をしなければいけない場合も多く遭遇します。

麻酔をかけて近づいてよく歯の状態を観察してみると、
歯石の周りにネバネバした歯垢がたくさん付着しています。


歯石と歯垢を除去してみると、歯肉が退縮していました。歯石は、表面がザラザラしているため歯垢がくっつきやすく細菌が繁殖しやすい状態になるため、歯周病の進行が早まり歯肉の減退や、骨を溶かしていきどんどん症状が悪化していきます。

デンタルレントゲンを撮ってみると、炎症により骨が溶けていました。歯石や歯垢がついたままの状態で放置していれば骨はどんどん溶けていくため、下顎で歯周病が進行している場合は、骨折を引き起こす場合もあります。


治療としては、歯周病によりこれ以上骨が溶けてしまうことを予防するため、抜歯による治療が基本となります。

抜歯した後は、きちんと取り残しがないか確認のデンタルレントゲンを撮ります。取り残しがないことを、確認できたら治療は終了となりますが、他の歯も骨が溶けているため、歯みがきと定期的な歯の検査を行いできるだけ歯周病が悪化しないように定期的なケアが大切になります。

口の中の疾患は、食欲も元気もあるため歯石がついているのは気になるけど、まだうちの子は大丈夫と、なぁなぁになっている場合は意外と多いです。
歯の中の状態は、デンタルレントゲン検査でしか確認できないため、なるべく早めの段階で状態を把握して対策してあげないと、病態が進行してしまい気付いた時には歯を抜くしか方法がなくなってしまう場合が多いのです。

少し早めの歯科相談や歯石とり、歯みがきの習慣化を心がけてあげることで歯を抜かないで済むことができます。犬や猫の口の中の相談は少し早めを心がけてあげましょう。

●こんな症状が見られたら、すぐにご相談・ご来院ください。
□よだれが多い、口の中がネバネバしている
□口の中が臭い
□歯石がついている
□歯茎が赤い
□口の中が出血している
□細菌歯が伸びたきがする
□歯がぐらついている
□食欲がおちてきた
□硬いものを噛まなくなった(食べなくなった)
□口を触ると嫌がるようになった



お口のなかは大丈夫?犬や猫の歯垢(歯石)や歯周病は、命に関わる場合もあります。

犬や猫の歯科診療を実施している中で、歯石や歯周病での相談されることは多いですが、”もう少し早く相談して欲しかった”と思ってしまうケースはかなりたくさんあります。
この写真の、重度の歯周病のわんちゃんもそうでした。
歯がつながってしまうくらいに歯石が蓄積しており歯垢がかなり付着しています。
3日前より全く食べなり、口を触るとかなり痛がるようになったと来院されました。診察していくなかで、以前より体重が2kgほど減っているようです。話を詳しく聞いていくと、2−3ヶ月ほど前からドライフードを食べなくなり柔らかいフードに変更してなんとか食べていたみたいですが、いよいよもって食べなくなってしまい来院されたとのことでした。

健康な子であれば、急に食べなくなったり好みが急に変わったりすることはほとんどありません。いつも食べているものを急に食べなくなるという症状はなんらかの病気のサインである場合が多いです。とくに、犬や猫の歯科疾患の場合には見られやすい症状です。
歯のあたる部分の粘膜は真っ赤に炎症をおこしてしまっています。とても痛そうです。診察に来ていただいた時は、口を触ろうとするとかなり痛がりほとんど診させてもらえませんでした^^;

血液検査でも白血球の増加と炎症マーカーが測定値オーバー…歯原性菌血症をおこし敗血症をおこし始めています;;このままでは危険なためすぐ入院をおすすめして、抗生剤と点滴を投与しながら数日間治療、全身状態の安定化させてから歯科治療を実施しました。
※術後の写真
どの歯もかなりよくない状態のためほとんどの歯を抜歯しています。抜歯したあとは、炎症でできた不良肉芽をできるだけきれいに除去して歯茎を縫合しています。
歯肉のダメージも激しかったため、縫合がとても大変でした。術後は、医原性菌血症も起こすため状態が悪化する恐れもあるため、点滴と抗生剤を全身投与しながら数日間入院して状態を観察してからの退院となります。

※治療前後の写真
粘膜におきていた炎症もほとんど無くなりました。

※治療前後の比較写真少し遠目で。

治療開始後10日目の写真です。縫合部も問題なくくっつきました。血液検査でも白血球数も炎症マーカーも無事に正常値に^^
体重も1kgほどふえており、無事に完治することができました。

口の中は暖かく、湿度もあり、栄養も豊富なため細菌がとても繁殖しやすい環境です。歯垢の中の細菌の数はかなり多く、同じ量のウンチと比較しても圧倒的に歯垢中の細菌の数の方が多いです。

歯周病は、細菌により引き起こされた炎症により歯を支えている顎の骨が溶けていくとても怖い病気です。歯石や歯垢(プラーク)をそのまま放置していると口の中で炎症が起こり咀嚼運動をしたときに口の中血管が切れて出血をおこします。切れた血管の中に細菌が入りこみ菌血症をおこしてしまいます。抵抗力のある若い間は一過性の場合も多いですが、高齢の子や何らかの病気で抵抗力の落ちている子は敗血症に移行してしまい命に関わる程の重篤な状態になることもあります。

わんちゃんやねこちゃんの口の中は、何もやらなくて良いわけではありません。
皮膚病や内臓疾患などと同様に定期的な健康チェックや健康診断はとても大切です。毎日の歯みがき定期的なチェックや歯石取りをしてあげることでほとんどの場合は未然に防ぐことができます。

当院では、犬や猫の歯科治療のほかに、口の状態の観察を行わせていただきよりその子にあった歯みがきのやり方やコツなどを定期的にアドバイスも行っております。
なんとなく歯みがきや歯のケアをするのではなく、よりその子にあったデンタルケアをしてみませんか?

●こんな症状が見られたら、すぐにご相談・ご来院ください。
□よだれが多い、口の中がネバネバしている
□口の中が臭い
□歯石がついている
□歯茎が赤い
□口の中が出血している
□細菌歯が伸びたきがする
□歯がぐらついている
□食欲がおちてきた
□硬いものを噛まなくなった(食べなくなった)
□口を触ると嫌がるようになった


歯牙破折:犬や猫に硬いおやつは要注意!硬いおやつやおもちゃは歯が欠けたり折れる原因になります。

歯牙破折(平板破折、磨耗、露髄)
犬や猫で歯が折れた!かけた!と慌てて来院されることは意外に多いです。
特に多いのは、ひづめのおもちゃやアキレス腱や歯磨きガムなどの硬いおやつをあたえたら欠けてしまったとこられるケースです。

硬いおやつで破折した左上顎第4前臼歯

上の写真は、「ひづめのおもちゃ」を与えて左の上顎第4前臼歯が破折してしまい来院された子の写真です。犬や猫の前臼歯は「裂肉歯(シザーバイト)」という肉食哺乳類にみられるハサミの様な構造をしており、皮や筋肉を切り裂くための形をしています。そのため、硬いおやつやおもちゃなど噛み切れない硬さのものを与えると刃こぼれを起こすように歯が欠けてしまいます。
特に、上顎第4前臼歯(上顎奥歯の一番大きい歯)は接地する面が大きいため、歯が最も欠けやすい場所です。先日もお話ししたように、歯が折れた・欠けたてしまった場合は、歯髄に感染が起きる前に治療をすることが大切なためお早めの来院をお勧めします。そのまま放置していると痛みで口を触らせなくなったり、首を傾げたり、片側でご飯やおやつを食べるようになったり、ひどい場合には、鼻やほっぺに瘻管をつくり鼻水や頬が腫れたり、膿がでてきたりすることもあります。

今回は、「犬や猫の折れた歯・欠けた歯を残す治療」ひづめを与えたら左上顎第4前臼歯が破折し露髄をおこし、抜髄根菅治療を実施したケースのご紹介です。犬で、一番多く見られる第4全臼歯の破折です。

ひづめのおもちゃにより破折した左上顎第4前臼歯


口を痛がり何かおかしいな?と思い口の中をのぞいたら歯が欠けていたのを見つけ、折れた歯を残したいと来院されました。見つけたのは3日前ほどということなので、早めに全身麻酔下にて、破折した場所を検査し治療を行いました。

探針ブローブ検査で露髄を確認

肉眼的には、赤く露髄している箇所があり、周囲にうっすらと歯石があるため破折して直後の可能性は低そうです。探針プローブで検査すると露髄を確認できました。

歯科レントゲン検査でも、根尖への感染も認められないため、今回は受傷から2日以上たっている可能性が高いため、歯髄への感染も考えて、抜髄根菅治療にて治療していきます。
 
第4前臼歯は、歯の根が3本(3根歯)のため2カ所に穴を開けてアプローチし1本1本歯髄の中の血管と神経をファイルを大きくしながら取り除いていきます。
時折レントゲンで確認しながら、尖端まできちんとファイルが入っているか確認をしながら治療を進めていきます。とても時間のかかる処置です。


歯髄の中の血管と神経をきれいに除去をできたら念入りに消毒と乾燥をして、充填材で歯髄を密閉し、充填材がしっかりと入っているか歯科レントゲンで確認します。

充填材が入っていることをしっかりと確認できたら、最後に穴の開けた部分を、歯科用のレジンで埋めて綺麗に磨いて治療を終わりました。今後は、半年〜1年毎に感染が起きてないないか治療後3年目くらいまで歯科レントゲン検査で歯の根の状態を経過観察をしていきます。

犬や猫の歯が折れてしまった・欠けてしまったときは、「犬や猫の歯を残す治療」を行うこともできます。露髄している場合は、数日以内に治療を行うことで歯を残せる可能性を高くすることができます。

ひづめのおもちゃアキレス腱や歯磨きガムなどの硬いおやつやテニスボールやゴム製のおもちゃ、ゲージを噛むなど、歯を折れたり・かけたりする原因は身近に多く存在しています。犬や猫の歯を気にされているオーナー様も多いです。そのため、ペット用品コーナーで歯石予防や歯みがき効果などと記載されて販売しているおもちゃやおやつをいろいろ試してみたくもなるお気持ちもとてもわかります。
しかしながら、毎日の歯みがき以上に効果のあるデンタルケアは残念ながら存在しません。(もしあるなら、人が歯みがきをしないですよね?)
できるだけ、1日1回の歯みがきを習慣化し、なるべく歯が欠けたり折れたりしてしまうような硬いものを与えるのはできるだけ避けるようにしましょう。どうしても硬いおもちゃやおやつを与えないといけない場合や、ゲージなどを噛んでしまう場合は、定期的に口の中を覗いて欠けたり折れたりしていないかみてあげましょう。