肝・胆道系疾患:犬や猫の肝臓病や胆道系疾患は無症状で進行していくとても怖い病気です。肝臓や胆嚢は健康ですか?健康診断などの検査で定期的にチェックをお勧めします。

先日の投稿でも8月は重症の子が入院や手術をしたりと投稿しましたが、今回は、その入院していた病気について(肝胆道系疾患)のお話を書こうと思います。

■肝胆道系疾患:肝臓と胆嚢を合わせて肝胆道系と言います。
肝臓と胆嚢は、胸とお腹の境界にある臓器です。肺から横隔膜を隔てて肝臓があり肝臓に包まれるように胆嚢があります。肝臓は、胃や十二指腸を包むようにあり、内臓の中では一番大きな臓器で生命を維持するために様々な仕事をする大切な臓器の一つです。

肝臓は、栄養素を代謝したり・コレステロールを胆汁に作り変えて小腸に分泌したり、エネルギー源を蓄えて貯蔵したり、体の中の有害物質を解毒して無毒化したり生命を守るためにたくさんの働きをしています。また、再生力と予備能力が非常に高い臓器で肝臓全体の4/5以上ダメージを受けても症状をださずに体を守るために自分の仕事をやり遂げようとする臓器です。そのため、「沈黙の臓器」と呼ばれ病気があったとしても症状がほとんど出ずに知らない間に病気が進行してしまい、手遅れになってしまうこともあります。

一方胆嚢は、肝臓で分泌された胆汁を濃縮し貯蔵する組織です。小腸に脂肪が入ってくると貯蔵された胆汁が胆嚢から放出されて総胆管を介して十二指腸へ分泌されます。


十二指腸には、総胆管(肝臓や胆嚢から胆汁を分泌する管)と主膵管(膵臓から膵液を分泌する管)があり、どちらも十二指腸を介して近くに存在するため小腸(十二指腸)・肝臓・膵臓のどこかの臓器で炎症が起きると残り2つの臓器にも炎症が波及してしまうこともあります。この病態は、三臓器炎と呼ばれ猫は総胆管と主膵管が一緒になっているため起こりやすい病気です。
炎症以外にも、胆管閉塞や胆嚢粘液嚢腫、肝不全や肝硬変、腫瘍など様々な病気になることがあります。

肝胆道系疾患
原因は?
 ①ジャーキー類の高カロリーで高脂肪なおやつ
 ②内分泌系の異常(甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症)
 ③細菌感染
などがあげられます。特に、ジャーキーなどのおやつ類をたくさんあげている場合は、2〜3歳位でも胆泥症が見られたりする場合も多いです。

症状は?
 ①食欲の低下や廃絶
 ②吐き気や下痢
 ③腹部痛
 ④黄疸(白目や口の中、白い毛が黄色くなるなど)
などがよくあげられる症状ですが、ほとんどの子は無症状の場合が多いです。①〜④の症状が見られた場合は、重症化している場合が多いです。

検査は?
 ①画像診断:レントゲン検査や超音波検査、CT検査など
 ②血液検査:血球計算、生化学検査、炎症マーカー、膵炎マーカー、凝固機能検査など
 健康診断などで偶然見つからる場合も多いですが、検査などで見つかっても無症状の場合が多いです。その場合は、定期的チェックしながら経過観察を行ったり、食事の改善や内服薬などで予防や治療を行ったりもします。

治療は?
 無症状や軽症の場合
 ①内科治療:抗生剤や強肝剤、胆汁の排泄を促す薬などを使用します。
 ②食生活の改善:バランスの良い食生活にしていきます。

 何らかの症状が見られ病態が重い場合や胆嚢破裂など緊急度が高い場合
 ③外科手術:胆嚢切除、総胆管洗浄、腫瘍切除、肝臓生検など
       肝臓や胆嚢の病態に沿った手術を実施します。

今回ご紹介する、肝胆道系疾患になってしまった子は、Rちゃん11歳。
3〜4日前から食欲と元気がなく、食べたものを全部吐いてしまうと来院された子です。いつも元気いっぱいに爪切りに来院されるのに、明らかに元気もなく症状が重そうな状態でした。

続く…

触診で、いろいろとチェックしていくと、体温も高く、お腹を痛がるようです。体重も前回測った時より500g近く落ちています。目をみると結膜が黄色くなり、黄疸の症状が見られました。肝胆道系疾患を疑い、現在の病態を説明しながらそのまま、血液検査とレントゲン検査、超音波検査を実施していきました。
レントゲン検査では、胆嚢部位に陰影の所見がうっすらと見えています。
超音波検査では、胆嚢壁の高エコーと胆石様の構造物が胆嚢頚部に詰まったような所見と胆汁の変性が見られました。
血液検査上でも、白血球の上昇と肝酵素値の上昇、高ビリルビン血症と炎症マーカーの上昇が認められました。肝外胆管閉塞の可能性が高く、胆嚢も出口付近で目詰まりしているようです。状態もかなり重く内科的治療で様子を見ていると亡くなる可能性も高そうなためすぐに、胆嚢摘出術と胆管洗浄、胆汁の細菌培養検査と抗生物質の感受性検査、肝臓の一部切除生検を実施し入院にて治療しました。
上の写真は、今回摘出した胆嚢です。胆嚢の2/3位が胆石でうめられており、胆汁も変性して泥状(ゼリー状)になっていました。
摘出した胆嚢と肝臓を病理検査に、胆汁は細菌培養と抗生剤の感受性検査にだして検査結果待ちです。結果が出るまでの間は、肝保護剤や利胆剤、抗生剤、DIC(播種性血管内凝固)をおこさないように予防的な薬剤などを使いながら治療していきます。お盆も近く、検査会社なども休みに入る所も多かったため結果が間に合うか心配でしたが、今回はお盆前に検査結果が送られてきました。

病理検査の結果は、胆嚢:慢性胆嚢炎、初期胆嚢粘液嚢腫、肝臓:慢性化膿性胆管肝炎。肝臓では、かなり重度な炎症がおきており膿疱もできているため、経過には注意が必要とのこと。抗生剤の感受性検査の方は、ほとんどの抗生剤に感受性があり使用している抗生剤も問題なかったためそのまま治療を継続して治療していきます。

入院してすぐに手術をして、3〜4日ほどでだいぶ元気を取り戻してきて食事なども徐々に食べるようになってきました。肝臓の数値も7日目ほどで下がり始めてきましたが、炎症がなかなか改善していきません。少しずつ改善はしていきましたが退院して内服薬で治療できるようになるまでは、2週間ほどかかりました。
病態から考えると、容態が悪化することなく順調に改善してくれて一安心でしたが、これから症状と数値が落ち着いてくるまで検査や投薬、食事療法などまだまだ長い病気との戦いがあります。数ヶ月から数年、慢性肝不全となってしまった場合は寿命がくるまで内服薬での治療が必要になる場合もあります。

肝臓や胆嚢の病気は、健康診断などの検査などで見つかったとしても、無症状で生活には何ら影響のない場合が多いです。しかし、重症化してしまうと突然ぐったりとして、手術や治療が間に合うのか?と感じるくらいの病態になってしまっている場合が多いです。

健康診断など定期的に健康チェックをすることではやめに見つけてあげることができます。症状が出ていない場合は、定期検査や食事管理、早めの内服などで病態の悪化を遅らせたり予防できる場合もあります。
年に1・2度の健康診断で早期発見できる場合も多いです。決まった間隔での定期的な健康チェックをおすすめします。